手が、自然と動いていた。
 凛はそっと、悠翔の頭に手を置いた。


 「……君は荷物なんかじゃない」


 悠翔が顔を上げる。涙に濡れた瞳が、凛を見つめていた。


 「君がここにいる理由は、命令でも、義務でもない。……少なくとも、私はそう思ってる」

 「……凛さん……」


 その瞬間、ふたりの距離が音もなく縮まる。

 凛は躊躇なく、悠翔の手を握った。
 彼の冷たい指先を、自分の温度で包み込むように。


 「泣きたいなら、ここで泣け。……私は誰にも言わない」


 悠翔は小さく頷き、凛の手を強く握り返した。

 ふたりの間に流れる静寂は、何よりも深くて、優しかった。