第8話:じゃあ、おれの番
◇ある晴れた日曜の朝。
○湊の下宿先の一室。古本と判例集が積み重なった静かな部屋。
◆湊はノートPCを閉じて、机にうつ伏せになる。
◆壁に貼ってある司法試験の予定表をぼんやり眺める。
湊(モノローグ)
「……俺はずっと、“誰かを守れる人間になりたい”って思ってた」
「だから警察官を目指した。でも、現実は無理だった」
「でも今――“守りたい誰か”が目の前にいるのに、また逃げてるのかもしれない」
◇画面に浮かぶ、優結からのメッセージ。
《西條 優結》:
【今日は、練習が少しだけ早く終わりそうです】
◆湊の指が、スマホ画面の上で止まる。
湊(モノローグ)
「答えを保留にしてるのは、相手のためって言い訳してるだけだ」
「本当は――ただ、自信がないだけなんだ」
◇その日の夕方。
◇優結、練習帰り。駅の近くの歩道橋でぼんやり空を見ている。
◆そこへ、湊が姿を現す。
◆私服の湊は、少し髪が乱れていて、珍しく息を切らしている。
優結
「……久賀さん? だ、大丈夫ですか」
◆普段見たことない姿に心配になる。
湊
「……ごめん、急に。どうしても今日、話したくなった」
◆優結の表情が少し驚きから柔らかく変わる。
◇歩道橋の上。空は茜色に染まり始めている。
湊
「西條さんが言ってくれた“好き”って言葉――」
「正直、最初はどう受け止めたらいいか分からなかった」
「“嬉しい”って感情が、こんなに不器用で不確かなものだったなんて、自分でも驚いた」
◆優結は、静かに耳を傾けている。
湊(ゆっくりと)
「……でも、それから毎日、君のことばかり考えてた」
「笑ってる顔、真剣にヴィオラを弾く横顔、少しだけ不安そうに俺を見る目……」
◆湊の声が、少しだけ震える。
湊
「俺、たぶん……君のこと、好きなんだと思う」
「“たぶん”なんて、失礼かもしれないけど……これが今の俺の、精一杯で」
◆優結の目が潤む。
優結
「……“たぶん”でも、嬉しいです」
「久賀さんの“考えてくれた気持ち”が、ちゃんと伝わってきて……」
湊
「じゃあ……今度は、おれの番」
「俺も、ちゃんと気持ちを育てたい」
「だから、また会ってくれる?」
優結(涙をこらえながら微笑んで)
「……はい。もちろんです」
○歩道橋の上、ふたりを照らす夕日。
◇ゆっくりと、世界がやさしい色に染まっていく。
優結(モノローグ)
「“好き”が始まる音がした」
「ちゃんとこっちを見てくれるその瞳が、嬉しくてたまらなかった――」
◇ある晴れた日曜の朝。
○湊の下宿先の一室。古本と判例集が積み重なった静かな部屋。
◆湊はノートPCを閉じて、机にうつ伏せになる。
◆壁に貼ってある司法試験の予定表をぼんやり眺める。
湊(モノローグ)
「……俺はずっと、“誰かを守れる人間になりたい”って思ってた」
「だから警察官を目指した。でも、現実は無理だった」
「でも今――“守りたい誰か”が目の前にいるのに、また逃げてるのかもしれない」
◇画面に浮かぶ、優結からのメッセージ。
《西條 優結》:
【今日は、練習が少しだけ早く終わりそうです】
◆湊の指が、スマホ画面の上で止まる。
湊(モノローグ)
「答えを保留にしてるのは、相手のためって言い訳してるだけだ」
「本当は――ただ、自信がないだけなんだ」
◇その日の夕方。
◇優結、練習帰り。駅の近くの歩道橋でぼんやり空を見ている。
◆そこへ、湊が姿を現す。
◆私服の湊は、少し髪が乱れていて、珍しく息を切らしている。
優結
「……久賀さん? だ、大丈夫ですか」
◆普段見たことない姿に心配になる。
湊
「……ごめん、急に。どうしても今日、話したくなった」
◆優結の表情が少し驚きから柔らかく変わる。
◇歩道橋の上。空は茜色に染まり始めている。
湊
「西條さんが言ってくれた“好き”って言葉――」
「正直、最初はどう受け止めたらいいか分からなかった」
「“嬉しい”って感情が、こんなに不器用で不確かなものだったなんて、自分でも驚いた」
◆優結は、静かに耳を傾けている。
湊(ゆっくりと)
「……でも、それから毎日、君のことばかり考えてた」
「笑ってる顔、真剣にヴィオラを弾く横顔、少しだけ不安そうに俺を見る目……」
◆湊の声が、少しだけ震える。
湊
「俺、たぶん……君のこと、好きなんだと思う」
「“たぶん”なんて、失礼かもしれないけど……これが今の俺の、精一杯で」
◆優結の目が潤む。
優結
「……“たぶん”でも、嬉しいです」
「久賀さんの“考えてくれた気持ち”が、ちゃんと伝わってきて……」
湊
「じゃあ……今度は、おれの番」
「俺も、ちゃんと気持ちを育てたい」
「だから、また会ってくれる?」
優結(涙をこらえながら微笑んで)
「……はい。もちろんです」
○歩道橋の上、ふたりを照らす夕日。
◇ゆっくりと、世界がやさしい色に染まっていく。
優結(モノローグ)
「“好き”が始まる音がした」
「ちゃんとこっちを見てくれるその瞳が、嬉しくてたまらなかった――」



