第7話:好きって、伝えちゃダメですか?
◇週明けの昼休み。
○音楽大学・中庭のベンチ。

◆練習帰りの優結が1人、ヴィオラケースを抱えたままうつむいている。

◆スマホの画面には、湊とのLINEトークが開かれている。
◆最後のやりとりは3日前の「またな」で止まっている。

優結(モノローグ)
「……こんなふうに、連絡待ってるのも疲れちゃう」
「でも、諦めたくない。今の私がここまで誰かを好きになれるなんて、きっと、もうないかもしれないから」



◇その日の放課後。
◇優結は、思い切って湊にメッセージを送る。

《西條 優結》:
【今週、どこかで少しだけお話できませんか?】



○翌日・夕方。大学近くの河川敷のベンチ。
◇優結と湊が並んで座っている。

◆少し肌寒い風が吹いているが、ふたりの間にあるのは沈黙。


「……何かあった?」

優結(小さく首を横に振って)
「ただ、話したかっただけ……なんです」
「……でも、ほんとは、ちゃんと伝えたいことがあるの」

◆湊が、真剣なまなざしで優結を見る。
◆その視線に、一瞬だけためらったあと――優結は、勇気を出して口を開く。

優結
「久賀さんのこと、好きです」
「ずっとずっと、前から……たぶん、高校生のときから……」
「だから……今こうして再会できて、何度も話して、もっと好きになって……」

◆湊が、驚いたようにわずかに目を見開く。

優結(続けて)
「でも、久賀さんは、何も言わないから……」
「私の気持ち、気づいてないのかなって……それとも、気づいてるけど……迷惑なのかなって……」

◆声が少しだけ震える。

優結
「だから……ちゃんと聞きたかったんです」
「“好き”って、伝えちゃ……ダメですか?」


◇風が少しだけ強く吹いて、優結の髪が揺れる。

◆湊はしばらく黙っていたが――ゆっくりと口を開く。


「……ダメじゃない」
「ただ、俺は……そういう気持ちを、どう受け止めればいいか、まだよくわかってなくて……」

◆その言葉に、優結は少しだけ下を向く。

湊(続けて)
「でも、君に会うと、ちゃんと心が動くのは本当」
「“また話したい”って思うし、“会いたい”って思う」
「……だから、俺も、ちゃんと考えたい」

◆湊は、優結のほうに身体を向けて言葉を続ける。


「ごめん。すぐに答えられないのは、不安にさせるかもしれないけど……」
「君が、俺に“好き”って言ってくれたこと、すごくうれしかった」


◇優結は、静かに微笑む。
◇その表情には、涙も不安も少しあるけれど、どこか吹っ切れたような“やさしさ”がある。

優結
「……うれしかったって言ってくれて、ありがとうございます」
「待つのは……ちょっと怖いけど」
「それでも、伝えてよかったって思います」


○日が落ち始めた河川敷。
◇オレンジ色の光が、ふたりを静かに包んでいく。

優結(モノローグ)
「伝えることで、終わっちゃうかもしれないって、思ってた」
「でも、久賀さんの“答えを探そうとしてくれる”そのまっすぐさが――」
「やっぱり好きだなって、思ってしまう」