第4話:じゃあ、俺のことも覚えてて

○音大のキャンパス内
 
◇再会を果たしてから数日。
◇優結の心の中では、あの夜の言葉と笑顔が、ずっと余韻のように残っていた。

◆廊下を歩きながら、携帯を取り出し、LINEを開く。

優結(モノローグ)
「“また話そう”って久賀さん、言ってくれたけど……」
「こういうとき、こっちから連絡してもいいのかな……」

◆指が何度か止まり、結局、画面を閉じる。

優結
「……だめだ。勇気、出ないや」


◇その頃。
○法学部の学生ラウンジ。

◆湊は参考書を閉じ、外を眺めている。

友人・谷口
「……お前、なんか最近ぼーっとしてるよな」
「西條さんのこと、気になってんじゃね?」

湊(あっさり)
「気になってるよ」

◆谷口が口をあんぐり開ける。

谷口
「……即答!? え、マジで?」


「特別な再会だったし、たぶん……偶然以上のことだと思ってる」
湊(心の中)
「それに、可愛いし」

◆その言葉に、湊自身がほんの少し照れたように、目を逸らす。

湊(モノローグ)
「名前も知らなかったけど、ちゃんと“覚えてた”」
「じゃあ、今度は――俺のことも、覚えててほしい」


◇その週末。
◇偶然、同じカフェで出会うふたり。

◆優結が1人で譜面を読みながらお茶をしていると、ドアが開き、湊が入ってくる。


「……あれ、西條さん?」

優結(驚きながら微笑んで)
「久賀さん……こんにちは。ここ、よく来るんですか?」


「うん。家から近いから。……隣、いい?」

優結
「もちろん!」

◆ふたりは並んで座る。まるで、自然なように。



◇コーヒーが届き、ふたりの会話は緩やかに始まる。


「元気? あ、ヴィオラ、上手くいってる?」
湊(心の中)
「いや、専門でやってる人に上手くいってる?っておかしいだろ」

優結
「うーん……最近ちょっと伸び悩んでて」
「“好き”だけじゃ、うまくいかない時ってあるんですね」

湊(心の中)
「ちゃんと答えてくれるんだ、いい子だ」
「……きっと、それは大事なことだよ。原動力になるって言うし」

◆その言葉に、優結は目を見開く。
◆少し照れたように、笑う。

優結
「久賀さんって……意外と、励ますの上手なんですね」


「そっかな。……普段は、あんま言わないけど」


◆そして、ふと湊が真剣な表情になる。


「……西條さんは、俺のこと……覚えてた?」
「その、あのときの“助けた人”としてじゃなくて――今の、俺のこと」

優結(驚いて視線を合わせる)
「……もちろん、覚えてます」
「合コンの日に、初めてちゃんと名前を知って……」
「“また会いたい”って、ずっと思ってた人だったから」

◆湊は、ゆっくり息を吐いて――微笑む。


「そっか。じゃあ、よかった」

◆その笑顔は、今までの湊と少し違って、どこか“照れていた”。


湊(やや低い声で)
「……じゃあ、俺のこと……これからも、覚えてて」

優結(小さくうなずいて)
「はい……」


◇カフェの窓の外、街路樹が夕日に照らされてオレンジ色に染まっていく。
◇ふたりの間に流れる時間は、ささやかだけど、確かな“ぬくもり”を帯び始めていた。

優結(モノローグ)
「忘れるわけ、ないよ」
「だって、今……やっとちゃんと“好きになりそうな人”に、出会えた気がするから」