第2話:初恋とそっくりな君
◇あの日の合コンから数日。
○音楽大学のキャンパス内。
◆優結は校内の中庭ベンチに座り、譜面台を前にヴィオラの練習をしている。
◆指が迷って止まり、ふと視線を遠くへ向ける。
優結(モノローグ)
「……やっぱり、似てたんだよね」
「あの人と、あの日の“誰か”……」
◆手元のヴィオラを見つめる。優しい音を思い出すように、静かに弦をなぞる。
◇その頃――
○別の大学。都内の法学部キャンパス。図書館。
◇湊は静かな図書館で、分厚い六法全書を読み込んでいる。
◆周囲の学生はざわついているが、湊だけは無表情で集中している。
友人・谷口
「久賀、お前さ……この前の合コン、どーだったよ?」
「1人、音大の子、いたよな。えーっと……西條さん?」
◆湊は一瞬だけ視線を止めるが、また視線を本に戻す。
湊
「……静かな子だったな。ヴィオラって言ってた」
谷口
「よく覚えてんな。お前、ああいう子、タイプ?」
湊
「……さぁ。でも、なんか……」
「“知ってる気がした”っていうか、不思議な感じはした」
○場面は週末。音大と法学部、合同のボランティアイベントが開催される日。
◆たまたま誘われた優結と湊、ふたりは再び“偶然”出会ってしまう。
◆会場の受付にいた優結。
◆スタッフリストを見ていると、ある名前に目が止まる。
優結(小声)
「……久賀 湊……」
◆その名前を見つめたまま、胸がキュッと鳴る。
◆そして、午後。
◆資料運びの手伝いで、優結が重いダンボールを持っていたとき――
湊(オフ)
「……持つよ。それ、重い」
◆ふいに横から手が伸び、ダンボールが軽くなる。
◆顔を向けると、そこにはやっぱり――湊の姿。
優結
「……あ……ありがとうございます……」
◆湊は優結の顔を見て、一瞬だけ言葉に詰まる。
湊
「……この前の、合コンの子だよな。西條さん……?」
優結
「はい。……久賀さん、ですよね」
◆ふたりの目が合う。優結の鼓動が早くなる。
◆でも――湊の表情はやっぱり、何も思い出していないようで。
○資料室へ向かう廊下。ふたりで歩く無言の時間。
◆気まずいような、でもどこか落ち着くような空気。
優結(モノローグ)
「似てるだけ。あのときの人じゃない」
「でも……声も、背中も、あの日のままに感じてしまうのは、どうして……?」
湊
「……西條さんって、なんでヴィオラ選んだの?」
◆意外な質問に、優結は少し驚き、笑って答える。
優結
「中学の時、テレビで聴いたヴィオラがすごく綺麗で高校の吹奏楽に入部して……弾くようになって」
「それから、ずっと……“深い音が好き”って思って、今も弾いてます」
湊
「……いい理由だね。芯がある」
◆その何気ない言葉が、優結の胸にすとんと落ちる。
優結(モノローグ)
「なんでこんなに、心に届くの……?」
○作業が終わり、夕暮れ。解散直前。
◆外に出た優結は、ふと見上げた空に、あの日の記憶を重ねる。
優結(モノローグ)
「あのときも、こういう夕方だった」
「誰にも言えなかったけど……あの人がいなかったら、きっと怖くて、泣いてた」
「“ありがとう”も、“また会いたい”も……全部言えなかった」
◆その背後、湊が静かに現れる。気配に振り返る優結。
湊
「……さっき、言いそびれたけど」
「ヴィオラの音、俺ほんとに好き。中学のとき、たまたま電車で聴いたことがある」
◆優結の目が、ふいに大きくなる。
優結(モノローグ)
「――それって……」
◇鼓動が跳ねる。思い出と現実が、ゆっくり重なっていく。



