第15話:はじめての、未来
◇秋のはじまり。
○湊、法学部キャンパスの掲示板前。

◆試験の合格発表の日。
◆息をのむ学生たちの中、湊はゆっくりと自分の番号を探す。

湊(モノローグ)
「この瞬間に、未来の景色が変わる」
「その先に……あの人がいてほしい」


◇番号が――あった。
◇“合格”。

◆湊、目を閉じて、深く息を吸い込む。
◆そして、すぐにスマホを手に取る。

湊(LINE入力)
【受かった。すぐ、会いたい。】

○音楽大学の練習室。
◇優結、ヴィオラの弓を置き、スマホを見つめて涙ぐむ。

優結(モノローグ)
「やった……やったんだ……! 湊……!」


○午後。いつもの中庭のベンチ。
◇ふたり、並んで座っている。


「やっと言える。“一緒に未来の話をしたい”って」

優結(涙を拭きながら微笑む)
「私は……もう、ずっと未来の中に湊がいました」
「今日、やっと“ちゃんと隣に立てた”気がするよ」


◇ふたり、そっと手を重ねる。
◇その手は、もう揺れない。


「優結、俺たち……ちゃんと歩いていこう」
「急がなくていい。でも、止まらずに」

優結(頷いて)
「うん。音みたいに、ゆっくりでも、響き続けるように」


◇後日。
◇優結の演奏会当日。

◆観客席に湊の姿。スーツ姿で、真剣な眼差し。
◆ステージに立つ優結。彼を見つけて、小さくうなずく。

優結(モノローグ)
「この音が、あの人の心に届きますように」
「私のすべてで、今日、“好き”を弾きます」


◇優結のヴィオラが静かに鳴りはじめる。
◇やわらかく、深く、どこまでも優しい音色。

◆客席で、湊は思わず目を閉じる。

湊(モノローグ)
「この音を聴くたびに、心が強くなる」
「優結の音が、俺の人生の背中を押してくれる」


◇演奏が終わり、拍手。
◇カーテンコール。
◇優結と湊、目が合う――微笑む。



○その後・帰り道。
◇並んで歩くふたり。


「未来って、目に見えないものだと思ってた」
「でも今はわかる。君がいるから、ちゃんと形になる」

優結
「私も、“誰かのために音を奏でたい”って思えるようになった」
「それが湊だったから、きっと、私はここまで来れたんだよ」



◇夜空の下、ふたり、そっと手をつなぐ。
◇その手は、もう“恋”ではなく、“信頼”で結ばれていた。

優結(モノローグ)
「この人となら、何度でも“はじめて”を迎えられる」
「はじめての恋、はじめての不安、はじめての涙」
「そして今、はじめての未来を――一緒に歩き始める」