第14話:再会の日に言いたいこと
◇8月下旬。
○猛暑がまだ残る朝のキャンパス。
◇優結、音楽室でひとりヴィオラを磨く。

優結(モノローグ)
「湊に最後に会ったのは、7月のはじめ。
 それから、電話もメッセージも、止まったまま」
「でも、信じてる。私、信じてるよ」



○一方・湊の下宿先。
◇机の上には過去問、六法、赤本の山。
◇彼は、無言で問題集を解いている。

湊(モノローグ)
「あと少し。
 この先に、“ちゃんとした未来”が待ってるって信じるしかない」
「……その未来に、優結がいるように」


○試験当日の朝・会場前。
◇湊、スーツ姿で列に並ぶ。

◆スマホを取り出し、しばらく見つめ――
◆そのままロックした画面をポケットに戻す。

湊(モノローグ)
「今は、何も言わなくていい。ただ、やりきるだけだ」


○数日後・音楽大学の中庭。
◇夏の終わり、風が静かに葉を揺らす。

◆優結、ひとりベンチに座りながらノートに何かを書いている。

優結(モノローグ)
「音楽って、いつも自分を映す鏡みたい」
「いまの私は、待ってる音。会いたい音」
「――それでも、信じてるって響きを忘れずにいられる」


◇彼女が手帳に書いているのは、「次に会ったときに言いたいことリスト」。

①「おつかれさま」
②「ちゃんと食べてた?」
③「がんばったね」
④「会えてうれしい」
⑤(小さく)「好きです」

優結(モノローグ)
「最初に何を言おう」
「うまく言葉にできなくても、笑って、目を見て――“好き”って言いたい」


◇その夜。
○優結、部屋のベランダから夜空を見上げる。

◆風が頬をかすめる。音も光もない、静かな夜。

優結(モノローグ)
「ずっと、支えたいと思ってた」
「でも、今は……きっと、私が支えられてたんだ」
「だって、あの人を思うたびに、音が強くなったから」



○同時刻・湊の部屋。
◇窓から月明かりが差し込む中、
◇湊は深呼吸して、スマホを手に取る。

◆新規メッセージ作成画面に、震える指で打ち込む。

《試験、終わった。話せる時間、作りたい》


◇翌日。
○カフェの外。優結、白いブラウスにカーディガン姿で待っている。
◇そこへ、湊が息を切らして走ってくる。


「……ごめん、待った?」

優結(微笑んで)
「ぜんぜん。やっと会えたね」


◇テーブル越しに向かい合うふたり。
◇言葉がなかなか出てこない。でも、目はしっかりと重なっている。


「……ありがとう。ずっと、待っててくれて」
「俺、今なら言える。――試験、本気でやりきった」
「その間、毎日……優結のこと、考えてた」

◆優結、涙をこらえながら笑う。

優結
「おかえりなさい、湊」



◇その言葉に、湊の肩の力が抜ける。
◇ふたりは、そっと手をつなぐ。

優結(モノローグ)
「名前で呼んで、心でつながって、待って、信じて――
 いま、ようやく“恋人”になれた気がする」