第11話:心に響いた音の理由
◇土曜日の午後。
○都内のホール。音楽大学主催のコンクール本選会場。
◆ホールのロビーは、緊張と熱気に包まれている。
◆優結は、黒のドレスに身を包み、ヴィオラを抱えながら舞台袖で深く息を吸う。
優結(モノローグ)
「もう、逃げない。今日は……“この音”で伝えたい人がいるから」
◇客席。湊が、静かに座っている。
◇少し緊張したような面持ちで、プログラムを眺める。
湊(モノローグ)
「音楽のことは、今もよく分からない」
「でも――西條さんの音だけは、ちゃんと聴きたいって思った」
○ステージ。
◇照明が優結を照らす。
◆彼女は、客席を見ずにゆっくりと弓を構える。
◇曲は、ブラームスのヴィオラ・ソナタ。
◇深く、あたたかく、それでいてどこか切ない旋律。
◆優結の音は、力強く、けれど繊細。
◆その音には、今までにない“確信”と“想い”が宿っていた。
優結(モノローグ)
「私は、誰かのために音を鳴らす」
「この音が、たとえ言葉じゃなくても――あなたに届いてほしい」
◇湊、目を伏せていたまなざしを上げる。
◆ただ、じっと、彼女の音に耳を澄ませる。
湊(モノローグ)
「……この音には、言葉がない」
「でも、まるで“好き”っていう想いがそのまま音に変わったみたいで――」
◆湊の目元が、わずかに赤くなる。
◇演奏が終わる。
◇ホールには、一瞬の静寂。そして、やがて大きな拍手が包み込む。
◇演奏後・ロビーの隅。
◇優結が一人、楽器ケースを閉じている。
◆そこへ、湊が駆け寄ってくる。
湊(息を整えながら)
「……すごかった。まじで、すごかった」
「俺……なんか知らないうちに、目から変な汗出てた」
優結(驚いて)
「……泣いたんですか?」
湊(軽く笑って)
「泣いてねぇよ……たぶん。でも、あんな音……初めて聴いた」
◆ふたり、並んで座るロビーの長椅子。
湊(真面目な顔で)
「西條さんが、あんなふうに音で気持ちを伝えようとしてるって、今日やっと実感した」
「……“好き”って、言葉で言えなくても、こんなふうに伝えられるんだな」
優結(小さく微笑んで)
「私は……久賀さんに、伝えたかったんです」
「好きって気持ち、信じてくれてありがとうって」
「……あなたに会ってから、音が変わったんです」
◇その言葉に、湊の目がふとやわらかくなる。
湊
「じゃあ、今度は――俺の番、かもしれない」
優結(目を丸くして)
「……え?」
湊(ゆっくりと)
「“好き”って、ちゃんと言葉で伝えるのって、やっぱ怖いけど」
「今の君の音、聴いたら……もう言わなきゃって思った」
◆一拍の沈黙。
湊(まっすぐ見て)
「俺、君のことが好きです。ちゃんと、ずっと、好きだった」
◇優結、言葉が出ない。
◇でもその目には、喜びと安心が溢れている。
優結(モノローグ)
「この瞬間のために、今日まで頑張ってきたんだ」
「言葉と音が、ようやく重なった――そんな気がした」
◇ふたり、並んで座ったまま、
◇ゆっくりと手を取り合う。
◇それは、やさしくて静かで、でも何よりも“確かな”はじまりだった。
◇土曜日の午後。
○都内のホール。音楽大学主催のコンクール本選会場。
◆ホールのロビーは、緊張と熱気に包まれている。
◆優結は、黒のドレスに身を包み、ヴィオラを抱えながら舞台袖で深く息を吸う。
優結(モノローグ)
「もう、逃げない。今日は……“この音”で伝えたい人がいるから」
◇客席。湊が、静かに座っている。
◇少し緊張したような面持ちで、プログラムを眺める。
湊(モノローグ)
「音楽のことは、今もよく分からない」
「でも――西條さんの音だけは、ちゃんと聴きたいって思った」
○ステージ。
◇照明が優結を照らす。
◆彼女は、客席を見ずにゆっくりと弓を構える。
◇曲は、ブラームスのヴィオラ・ソナタ。
◇深く、あたたかく、それでいてどこか切ない旋律。
◆優結の音は、力強く、けれど繊細。
◆その音には、今までにない“確信”と“想い”が宿っていた。
優結(モノローグ)
「私は、誰かのために音を鳴らす」
「この音が、たとえ言葉じゃなくても――あなたに届いてほしい」
◇湊、目を伏せていたまなざしを上げる。
◆ただ、じっと、彼女の音に耳を澄ませる。
湊(モノローグ)
「……この音には、言葉がない」
「でも、まるで“好き”っていう想いがそのまま音に変わったみたいで――」
◆湊の目元が、わずかに赤くなる。
◇演奏が終わる。
◇ホールには、一瞬の静寂。そして、やがて大きな拍手が包み込む。
◇演奏後・ロビーの隅。
◇優結が一人、楽器ケースを閉じている。
◆そこへ、湊が駆け寄ってくる。
湊(息を整えながら)
「……すごかった。まじで、すごかった」
「俺……なんか知らないうちに、目から変な汗出てた」
優結(驚いて)
「……泣いたんですか?」
湊(軽く笑って)
「泣いてねぇよ……たぶん。でも、あんな音……初めて聴いた」
◆ふたり、並んで座るロビーの長椅子。
湊(真面目な顔で)
「西條さんが、あんなふうに音で気持ちを伝えようとしてるって、今日やっと実感した」
「……“好き”って、言葉で言えなくても、こんなふうに伝えられるんだな」
優結(小さく微笑んで)
「私は……久賀さんに、伝えたかったんです」
「好きって気持ち、信じてくれてありがとうって」
「……あなたに会ってから、音が変わったんです」
◇その言葉に、湊の目がふとやわらかくなる。
湊
「じゃあ、今度は――俺の番、かもしれない」
優結(目を丸くして)
「……え?」
湊(ゆっくりと)
「“好き”って、ちゃんと言葉で伝えるのって、やっぱ怖いけど」
「今の君の音、聴いたら……もう言わなきゃって思った」
◆一拍の沈黙。
湊(まっすぐ見て)
「俺、君のことが好きです。ちゃんと、ずっと、好きだった」
◇優結、言葉が出ない。
◇でもその目には、喜びと安心が溢れている。
優結(モノローグ)
「この瞬間のために、今日まで頑張ってきたんだ」
「言葉と音が、ようやく重なった――そんな気がした」
◇ふたり、並んで座ったまま、
◇ゆっくりと手を取り合う。
◇それは、やさしくて静かで、でも何よりも“確かな”はじまりだった。



