第10話:好きって、もっと静かに燃えるんだ
○数日後・音楽大学の練習室。
◇夕方。優結がヴィオラを弾いている。
◇教室に残っているのは、もう彼女だけ。
◆音のひとつひとつに、心がこもっている。
優結(モノローグ)
「音にすると、なんだか素直になれる」
「“好き”って言葉も、こうやって響いてくれたらいいのに」
◇ヴィオラの音がふっと止まる。
◇扉の外から控えめにノック音。
湊の声(外から)
「……西條さん?」
◆優結、驚いた表情で立ち上がる。
優結
「久賀さん!? どうして……」
湊(扉を開けて、やや息を切らしながら)
「……たまたま近くに来たから。音、聞こえた」
◆優結、少し照れくさそうに笑う。
優結
「……練習、最後だけ見られたの、ちょっと恥ずかしいかも」
◇ふたり、練習室の窓辺で並んで座る。
◇窓の外には薄暮の空。
湊
「……前に言ってたよな。プロになれるか不安って」
優結(小さく頷く)
「はい。上には上がいるし、表現力も、まだまだです」
湊
「今日の音、……すげぇよかった」
「俺は音楽のことわからないけど、あの音、……あったかかった」
◆優結、目を伏せて、頬を染める。
優結
「そんなこと、言ってもらえるなんて……思ってなかった」
◇沈黙。
◇だが、悪い沈黙ではない。
◆湊、ポツリと口を開く。
湊
「この前、手……握ったの、ちゃんと理由ある」
「君が、道を渡るときに不安そうに見えたから。……俺が、手を引きたくなった」
優結(ゆっくり顔を上げて)
「……うれしかったです。すごく」
湊(まっすぐ見て)
「もっと触れたくなった。もっと、君のこと知りたいって思った」
「……こんなふうに思うのは、はじめてかもしれない」
◇静かな教室の中。
◇誰もいない空間に、心臓の音だけがやさしく響く。
優結(モノローグ)
「“好き”って、こんなに静かに燃えるんだ」
「大きな言葉や、ドラマみたいなキスじゃなくても」
「こうして同じ空気を吸ってるだけで、心が温かくなる」
◇湊、優結のほうにゆっくりと手を差し出す。
湊
「……また今度、ふたりでどこか行こう」
「そのとき、俺……もうちょっとちゃんと“言葉”にしてみる」
優結(そっと手を重ねて)
「……待ってます。焦らなくていいから、ちゃんと受け取れるように、私も、音で気持ちを育てておきます」
◇手と手が重なるその小さな動きが、
◇ふたりの心の距離を静かに、けれど確かに縮めていく。
優結(モノローグ)
「恋って、もっと静かで、あたたかくて――」
「こんなにも優しいものだったんだね」
○数日後・音楽大学の練習室。
◇夕方。優結がヴィオラを弾いている。
◇教室に残っているのは、もう彼女だけ。
◆音のひとつひとつに、心がこもっている。
優結(モノローグ)
「音にすると、なんだか素直になれる」
「“好き”って言葉も、こうやって響いてくれたらいいのに」
◇ヴィオラの音がふっと止まる。
◇扉の外から控えめにノック音。
湊の声(外から)
「……西條さん?」
◆優結、驚いた表情で立ち上がる。
優結
「久賀さん!? どうして……」
湊(扉を開けて、やや息を切らしながら)
「……たまたま近くに来たから。音、聞こえた」
◆優結、少し照れくさそうに笑う。
優結
「……練習、最後だけ見られたの、ちょっと恥ずかしいかも」
◇ふたり、練習室の窓辺で並んで座る。
◇窓の外には薄暮の空。
湊
「……前に言ってたよな。プロになれるか不安って」
優結(小さく頷く)
「はい。上には上がいるし、表現力も、まだまだです」
湊
「今日の音、……すげぇよかった」
「俺は音楽のことわからないけど、あの音、……あったかかった」
◆優結、目を伏せて、頬を染める。
優結
「そんなこと、言ってもらえるなんて……思ってなかった」
◇沈黙。
◇だが、悪い沈黙ではない。
◆湊、ポツリと口を開く。
湊
「この前、手……握ったの、ちゃんと理由ある」
「君が、道を渡るときに不安そうに見えたから。……俺が、手を引きたくなった」
優結(ゆっくり顔を上げて)
「……うれしかったです。すごく」
湊(まっすぐ見て)
「もっと触れたくなった。もっと、君のこと知りたいって思った」
「……こんなふうに思うのは、はじめてかもしれない」
◇静かな教室の中。
◇誰もいない空間に、心臓の音だけがやさしく響く。
優結(モノローグ)
「“好き”って、こんなに静かに燃えるんだ」
「大きな言葉や、ドラマみたいなキスじゃなくても」
「こうして同じ空気を吸ってるだけで、心が温かくなる」
◇湊、優結のほうにゆっくりと手を差し出す。
湊
「……また今度、ふたりでどこか行こう」
「そのとき、俺……もうちょっとちゃんと“言葉”にしてみる」
優結(そっと手を重ねて)
「……待ってます。焦らなくていいから、ちゃんと受け取れるように、私も、音で気持ちを育てておきます」
◇手と手が重なるその小さな動きが、
◇ふたりの心の距離を静かに、けれど確かに縮めていく。
優結(モノローグ)
「恋って、もっと静かで、あたたかくて――」
「こんなにも優しいものだったんだね」



