第1話:再会なんて、知らなかった

 ○都内のお洒落なバー
 
◇音楽大学1年生・西條優結。今日は、人生で初めて“合コン”なるものに参加する日だった。

◆控えめな照明の中、にぎやかな会話が飛び交う。
◆優結は少し緊張気味に、テーブルの隅に座っている。

優結(モノローグ)
「大学って、自由で、楽しくて……」
「でも、まさか自分が合コンに来る日が来るなんて、思ってなかった」

沙耶
「だいじょーぶ!優結は絶対ウケるってば。黙ってたって可愛いし!」
「ほらほら、自己紹介してみて!」

優結
「あ、えっと……西條優結です。音大の、ヴィオラ専攻で……よろしくお願いします」


◇テーブルの向かい側には、タイプの違う男子たちが3人。優結に視線を集中させる。

男子A
「ヴィオラって、あれ? バイオリンの仲間? ちょっとマニアック~」

男子B
「西條さん、静かそうに見えて絶対モテそう。音大女子って可愛いイメージあるし!」

◆優結は笑ってごまかしつつ、手元のグラスの水に視線を落とす。

優結(モノローグ)
「合コンって、こんな空気なんだ……」
「うまく笑えてるかな……?」

◆そのとき――すぐ隣でグラスを静かに置く音。

◆視線をそちらにやると、1人だけ黙っていたクールな男子が、優結の方へほんの少し顔を向けた。

久賀湊
「ヴィオラ、か……渋いね」
「弦の中でいちばん、音に奥行きがある。俺、けっこう好きだよ」

◆その声に、優結の心臓が不意に跳ねる。
◆低く落ち着いた声。目を逸らさない無表情。だけど、なぜか――

優結(モノローグ)
「……この人……知ってる?」
「いや、そんなはず、ないよね……」



 
◇場面は切り替わり、淡いモノクロの回想――

◆高校生の優結。制服姿。電車の中で酔っ払いに絡まれて、怯えた表情を浮かべている。

◆そこに、ふいに現れた男子高校生が、優結の前に静かに立ちふさがる。

少年(高校時代の湊)
「……やめてもらえますか」
「彼女、困ってます」

◆その声と背中。何も言わず、でも確かに守ってくれた。

優結(モノローグ)
「――一瞬の出来事だった」
「名前も、顔も、何もわからなかった」
「でも、私は……あの人に、恋をした」


◆視線を戻す。合コンの場にいる湊。グラスを持ち直し、口元だけが少しほころぶ。

◆だけど、その目には優結を覚えている気配はない。まるで、完全な“初対面”。

優結(モノローグ)
「違う。あのときの人じゃない」
「似てるだけ……そんな偶然、あるわけない」

◆優結は小さく笑ってその場をごまかす。



○合コンの帰り道。夜の街。
◇優結と沙耶が並んで歩いている。

沙耶
「ねぇねぇ、久賀くんってさ、なんか……クールだけど優しい感じしない?」
「優結はどうだった? タイプだったりする?」

優結
「……うーん、どうだろう……」
「なんか……昔の、誰かにちょっと……似てたかも」

◆夜風が吹き、優結の髪がふわりと揺れる。

優結(モノローグ)
「あのときの人じゃ、ない。わかってる」
「でも……また会えたらいいなって、思ってた」
「ずっと、思ってたんだよ」


○駅の改札前。優結が改札を通っていくその背後――

◆少し遅れてやってきた湊が携帯を確認して立ち止まる。

◆ふと顔を上げた彼の目が、前を歩く優結の後ろ姿を一瞬だけとらえる。

湊(小声)
「……あれ?」
「……どこかで、見たことがある気がする……」

◇そして、すれ違うふたりの背中――
◇それが、物語の“再会”の始まりだった。