「……蒼ノ島、今日も素敵でしたね」
「うん。相撲もだけど、四股のときの腰の位置とか、絵になるもんなあいつは」
「そうそう! しかも今日、髷がちょっと……」
「澪、完全に解説員だね。兄貴の弟子より詳しいんじゃない?」
「えっ……い、いいんですか? 引かないですか?」
「引くどころか、惚れ直してる」
「っ……」
澪が思わず頬に手をあてると、神崎は隣でそっと笑った。
「……あのね」
「うん?」
「さっき、兄貴が少し話してくれたんだ。“父さんの最後の言葉”」
「……!」
「俺がまだ中学生で、職人になる前、父さん……『圭吾は自分で道を決めていい。でも一つだけ、人の髪に触れる重さだけは忘れるな』って言ってたらしくて」
「髪に……触れる、重さ……」
「それって、たぶん髷のことだけじゃなくて……誰かの人生に触れるってことだったんだと思う」
「……うん」
「澪に会ってから、その言葉がずっと頭に残ってた。
君と手をつなぐことも、君の髪に触れることも、俺には特別で、怖くて、大切で……」
神崎は、そっと澪のほつれた前髪に指を伸ばした。
その指先が、ほんの一瞬、額をかすめた。



