「……ねえ、圭吾さん」
「ん?」
「こうして近くで見ると……髷って、本当に綺麗。結い方にも、いろんな個性があるんですね」
「うん、そう。兄貴は、少し丸みを出すのが得意な結い方で……あれ、今の十両の人も、兄貴が結ってる」
「ほんとだ……あ、形が蒼ノ島のと少し違う……!」
「そう。あっちは、東京の別の床山さん。もっと高さを出す結い方」
「……まるで、その人の“背中”まで表してるみたいですね。力士の個性も、床山の手も……」
「……うん。だから、俺も床山になるって言ったとき、父も兄貴も……ちょっとだけ、期待してたんだと思う」
「……でも、神崎さんは、別の道を選んだ」
「うん。でも、いまなら言える。“俺は髷を結えなかったけど、誰かと一緒に、それを見て喜べる人間にはなれた”って」
その言葉に、澪は静かに目を細めた。



