「……兄貴。今日もよろしく」 「おう」 神崎清隆は、神崎と澪を見るなり、少しだけ表情を緩めた。 「赤木さん。……これ、手伝えるか?」 「えっ、私が……ですか?」 「櫛を整えるだけ。力仕事じゃない。……でも、大事な道具だから、手袋してな」 (……信じてもらえた、のかな) 澪は手袋を受け取り、慎重に職人の道具箱を開いた。 木櫛、髷油、髪紐、紙、くし洗いの布—— どれも丁寧に手入れされ、並べられていた。