「……兄貴、何か言ってた?」
「……神崎さんが背を向けたこと、ちょっと寂しかったって」
「……そっか」
「でも、“相撲が好きだって誰かに言えるなら、それでいい”って」
その言葉に、神崎はほんの少しだけ目を細めて、息を吸った。
「……昔より優しくなったな」
「……きっと、神崎さんがちゃんと“今”を生きてるからですよ」
ふと、神崎が澪の手を取る。
「俺も、もう逃げない。
好きなものを好きって言える澪が、……俺はすごく、誇らしい」
「……わたしもです。
神崎さんの歩んできた時間も、今の姿も、……すごく、好きです」
しんと静まる空間の中で、手と手が重なる。
まるで、髷を結うときのように、丁寧に、確かに。



