「へぇ〜、そういう女子も今は多いよね。
うちの妹も蒼ノ島の写真集持ってたわ」
「わかる、彼の四股とか超きれいだよね〜」
「えっ、詳しい……!」
笑い声が混じる中で、澪は少し肩の力が抜けるのを感じた。
その日の夕方。
神崎がそっと澪の席に近づいてきた。
「……今日、なんかざわざわしてたね」
「……はい、隠れスー女、バレました」
「……ふっ、そうか」
澪が小さく唇を尖らせると、神崎は控えめに笑う。
「でも、堂々としてた。かっこよかったよ」
「……っ」
「それに、ちゃんと趣味を持って、誰かの力士人生を応援できるのって、すごいことだと思う」
「……ありがとうございます」
「俺も、今なら言える。昔、髷を結う父と兄の姿が、ただ“すごい”って思えたことが、あの頃の俺の全部だった」
ふと、神崎の目がどこか遠くを見ているようだった。



