「ねえ」
「はい?」
「次、赤木さんと相撲観るとき……もうちょっと近い席、取っていい?」
「えっ、前の方ですか?」
「ううん、……もっと近いっていうのは、物理的じゃなくて。隣にいる気持ちが、もっと近くなるような観戦にしたいってこと」
「……っ」
「つまり、デートってこと」
「……それは、最初から、そうだったんですけどね……!」
「うん、俺もそう思ってた」
ふたりの笑い声が、夕暮れの稽古場通りに柔らかく溶けていく。
澪は思った。
神崎圭吾の“過去”を知ったことで、彼の“今”がもっと愛おしくなった。



