思わず心臓が跳ねた。 「ほんと? マジで付き合ってんの?」 「いや、さすがにそれは……」 「でも、あの神崎さんが、誰かと一緒に相撲観戦なんてレアすぎるって!」 「誰? 誰が言ってたの?」 「うちの後輩の友達が、たまたま両国で見かけたって。浴衣着てたってよ〜?」 ——浴衣。 間違いない。自分だ。 (どうしよう……) 社内に広がっていく“噂”に、澪の喉はひどく乾いた。 それ以上何も言えずにうつむいてしまった澪を、神崎はちらりと横目で見ていた——そのことには、気づけなかった。