「むしろ……赤木さんには、呼んでほしかった」
「……」
(この人、時々、ずるいくらい優しい)
湯気の立つぜんざいが運ばれてきた。
白玉をすくって、ふーっと冷ましながら口に運ぶと、ほっとした甘さが口いっぱいに広がる。
「あ……おいしい」
「だろ?」
神崎もスプーンを動かしながら、ちらりと澪を見た。
「……昔、初めて父親に髷を結ってもらった時、この近くの甘味屋でぜんざい食べたんだ」
「……圭吾さんが?」
「うん。まだ小学生くらいだったかな。稽古場の掃除とか手伝って、汗だくになって……父が帰りに連れてきてくれたのが、ここ。たぶん、甘いもの食べさせて黙らせようと思ったんだろうな」
「……でも、覚えてるんですね」
「うん。……うまかったから」
(この人、ほんとにいろんな“記憶”と一緒に生きてるんだ)
相撲の世界と距離を取りながら、それでも切り離せずにいる——
その温度が、神崎という人の芯にあるのだと、澪は少しずつわかってきた。



