両国国技館を出る頃には、あたりはほんのり夕暮れの色に染まり始めていた。
人混みの中、澪は神崎と肩を並べて歩いていた。
まだ手のひらが熱い。土俵の余韻と一緒に、ずっと心に残っていた。
「ねぇ、赤木さん」
「はい?」
「ちょっと歩こうか。近くに甘味屋があるんだけど、いいところ」
「……あ、甘味……! はいっ、行きたいです」
(ちょっと寄り道——“ちょっと”がすごくうれしい)
駅とは反対方向の、古い蔵造りの建物が並ぶ小道。
神崎が案内したのは、路地裏に佇む、落ち着いた和風の甘味処だった。
木の扉を開けて、二人で入ると、落ち着いた照明に包まれた空間。
神崎が席を選んで、澪のほうを振り返った。



