(……触れたら、どうしよう)
言葉が出ないまま、澪は自分の指をほんの少しだけ動かす。
すると、神崎も少しだけ、動かした。
——ふれる。
かすかに。けれど、確かに。
澪の心臓が、ひときわ高く脈打った。
場内アナウンスが、次の取り組みの力士名を呼ぶ。
「東、前頭五枚目——蒼ノ島〜!」
澪の視界がにわかに広がる。
場内のざわめき。歓声。四股名がコールされる、その瞬間——
彼の手が、澪の手を、そっと包んだ。
「応援しよう。……全力で」
「……はいっ」
土俵の上では、鋭く立ち合った蒼ノ島が、がぶり寄りを回避しながら、鮮やかな右差しからの突き落としで勝利を収める。
場内がどよめいた。
澪は、初めて誰かと共有する“勝利の瞬間”に、胸がいっぱいになった。



