「昔、兄貴が言ってたことがあってさ」
「……え?」
「髷を結う時って、力士がどんな相撲を取りたいか、わかるんだって」
「……え、それってどういう……?」
「髪の質、手入れの仕方、頭の向き。小さいことだけど、仕上がりに出るらしい。前に重心がある力士は、寄りが得意だったり。逆に横へバランス取るような人は、引き技が多かったり」
「へえ……!」
「髷の高さとか、結い上げの形でも、気持ちが出るらしいよ。『今日、やる気あるな』とか『負け癖ついてんな』とか。職人って、そういうとこ見抜くんだろうな」
「す、すごい……そういう見方、初めて知りました……!」
「観る目がある赤木さんに、ぜひ伝えたいと思って」
「っ……そんな……!」
思わず顔が熱くなる。
(“観る目がある”なんて、初めて言われた)



