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「……帯は、何色がよろしいでしょうか」
香袋を仕舞い終えたあと、志野子がぽつりと訊ねた。
仕立てる浴衣に合わせる帯についてだった。
「そうですね。あなたの手持ちのものに合わせてはどうですか?」
「……いえ。せっかくなら、先生に選んでいただけたらと思って」
惟道は少し驚いた顔をした。
だがすぐに、真剣な面持ちに戻り、庭の紫陽花を一瞥して言った。
「――椿色、はどうでしょう。
深い赤に、青みが差したような。香の煙にも似合うと思います」
「椿……色」
志野子は、かすかに唇を引き結んだ。
「……あの、椿色は、以前、わたしの母がとても好んでいた色で……。いえ、忘れてください。ご提案は嬉しいのです」
そう言った彼女の声に、微かな揺らぎがあった。
惟道はすぐに悟った。
椿という言葉が、彼女の記憶に触れてしまったのだと。
「……失礼しました。では、薄葡萄はどうでしょうか。
椿よりもやわらかく、けれど品のある色です」
志野子は目を伏せて、小さく頷いた。
「……ありがとうございます。先生のお気遣い、沁みました」



