「……おやすみなさい、先生」 声をかけたが、返事はない。 惟道の部屋は廊下を挟んで向かい側。 襖は閉じられ、部屋の灯りは消えている。 けれど、わずかに聞こえる筆の音が、まだ彼が起きていることを告げていた。 志野子は、そっと自分の文箱を開き、一筆書いた。 まだ見ぬ明日に向けた小さな詩のようなもの。 その紙を香箱に忍ばせて、そっと香の間の灯を見つめた。