春は、香りとともに。




 「こんなところでお会いできるなんて、まさか思いませんでしたよ。……お変わりなく、お綺麗ですね」

 「……ありがとうございます。そちらこそ、お元気そうで」


 公成は人混みのなかでも目立っていた。所作に気品があり、言葉も丁寧。けれどどこか、華族の頃と同じく余裕を今なお引きずっているような雰囲気もあった。


 「本当に、偶然ですね……」

 「ずっと東京を離れていたのですが、久しぶりに戻ってきまして。まさか、こんな町角で志野子さまに再会できるとは思わなかった」


 彼の視線が、志野子の頬や髪にすっと触れる。
 前と変わらずまるで品定めするような……と志野子は少し戸惑いを覚えながらも、失礼がないよう微笑んだ。

 隣でその会話を聞いていた惟道は、終始沈黙を保っていた。
 しかし、その目は微かに揺れていた。