春は、香りとともに。




  ***
 

 その夜、ふたりは縁側に並んで座った。

 雨は止み、夜の空には星がちらりと覗いていた。
 風がまだ少し冷たかったが、不思議と寒くはなかった。

 志野子は、そっと手を膝の上に置いたまま、ぽつりと言った。


 「……先生」

 「はい」

 「もし、これからもずっと、こうして日々を過ごせたら……わたし、もう一度、自分の人生を好きになれる気がします」


 惟道は、静かに頷いた。


 「それは、あなたの力ですよ。誰かに与えられるものではなく、自ら灯すものです」


 志野子はその言葉に、ふっと微笑んだ。


 「……それでも、隣に先生がいてくれるから、わたしは灯せたのだと思います」



 その微笑みは、初めてこの家に来たときよりも、ずっと柔らかく、ずっとあたたかかった。