もうずっとトリックスターには行ってない、あたしから依頼を断ったんだもん行くこともないんだけど。

でもどうしてだろう、行かなくなった今の方がトリックスターのことを考えてしまうのは。

「真涼ちゃん、お弁当一緒に食べよう?」

「……。」

「今日はどこで食べる?」

「…。」

「今日は天気がいいからっ」

「どうしてこんなことするんですか?」

もう顔を上げるのも疲れちゃった、こんな毎日が続くから。

「どうしてって…?」

うんざりして、飽き飽きして、もうどーでもよくなるくらいに。

「嫌がらせですか?あたしへの当てつけですか!?」

キッと雨花先輩をにらんじゃった。

でも雨花先輩はそんなあたしを見てニヤァと笑う、それが怖くて怖くて…

まるでそのまま雨花先輩に吸い込まれちゃうんじゃないかって。

それなのに雨花先輩はあたしに近付くから、変わらず微笑んで近付くから…

「あのね、クッキー作って来たの一緒に食べよ」

クッキー…?

ランチトートから取り出したのはラッピングされた手作りのクッキー、それは見覚えのあるクッキーでドッと心臓に大きく響いた。


あの日のクッキーだ…!


「いらないっ!!」


条件反射で体が動く、バッと手を上げ振り払ってしまった。

「あ…っ」

床にぐちゃっとクッキーが転がって…



ハッとした、雨花先輩の顔を見たら怖くなった。

色のない瞳はあたしを映さないから。


ゾクゾクと震え始めて止まらなくなる、どうしたらいいのかわからなくなるー…!


「…っ」


もう雨花先輩の顔が見ていられなくなって、雨花先輩の前に立っていられなくなって、そのまま教室から飛び出した。

逃げるように、離れるように、必死に足を動かして。


「真涼ちゃん…!」


それなのにまたあたしの名前を呼ぶから、何度も呼ぶから…

もうやめて

呼ばないで


あたしに近付いて来ないで…!