「真涼ちゃん」


あの日から、雨花先輩がよくうちのクラスに来るようになった。

3年生の蔵井雨花(くらいあめか)先輩は10分しかない放課もお弁当の時間も、それからホームルームが終わった帰りでも、必ずあたしの名前を呼ぶ。

そんでもってちょっと教室がざわついて、3年生の先輩が来るだけでもわーわーなのに雨花先輩は…ニヤァと笑った顔がどうも不気味で誰も寄せ付けないから。だんだんとあたしからもみんなが離れていく気がしてるし。

「真涼ちゃん、一緒に帰ろ?」

「あ、えっと…今日は智くんと帰るので…」

毎日毎日雨花先輩が来るから智くんと帰る日も減っちゃって、だけど今日こそはちゃんと言おうって。

「智くんって真涼ちゃんの彼氏だよね?私同じクラスだよ、園田智希くん!」

雨花先輩の瞳はあたしが映らないくらい真っ黒で、それがすごく怖くなる。


こんな時どんな顔をしたらいいんだっけ?


「ねぇ私も一緒に帰ってもいい?」

「え…」

それは、そんなの…

「真涼!」

「智くん…」

廊下を歩いていると智くんが来た、たぶん迎えに来てくれた。今日は絶対帰るって約束をしていたから。

「あ、蔵井と一緒だったの?」

うん、って言うのを迷っちゃった。どうしても口が動かなくて、そしたら雨花先輩があたしの腕に自分の腕を絡めて笑ったから。

「園田くん、私も一緒に帰ってもいいかなぁ?」

「俺はいいけど…真涼と蔵井って仲良かったんだ?」

「うん、仲良いよねぇ?」

さらにぎゅっと腕を絡める。近付いて、ねって。


「真涼ちゃんが傘を貸してくれた日から仲良いの」