ウェルカム・トゥ・トリックスター

「だからストーカーをやめさせてくれって言ったんだな」

「え?」

「最初から分かってたんだろ?ストーカーを探してくれとは言われてないからな」

「…。」

わかってた、知ってた。

そんなずるいことばかり考えてたの、あたし。

「…雨花先輩のことは気付いていました、傘を貸したあの日から」

“仲良くなりたかった”

あんな言葉あたしには重すぎる、あんな言葉聞くわけにはいかなくて。

「あたし、雨花先輩にひどいことしたんです…っ」

うれしかったなんて言わないでください、あたしはそんなにいい人じゃないから。

今だって自分のみじめさに泣いてるだけなのに。


こんな私に、そんな言葉はもったいない。


だって、私はただ…


「それでも蔵井雨花の心を救ったのは確かだ」


三日月先輩があたしを見てる。

真っ直ぐあたしを見る瞳をあたしは見られない、どんどん瞳に水分が溜まっていってもういっぱいいっぱいだ。

「あの時真涼が傘を貸したから、それは事実で変わることがない。どんな理由があれ、蔵井雨花は真涼の優しさに助けっ」

「違いますっ!!」

抑えきれなくて叫んじゃった。
いつもより遅いこの時間は他に誰もいないから、ううん…

誰かいてもたぶん抑えられなかった。

「別に優しさで傘を貸したんじゃないです…っ、そんなつもりで傘をあの日貸したんじゃない…あれはただっ」

一気に涙が溢れ出る、ボロボロと大粒の涙がぐちゃぐちゃに落ちていく。

「智くんとおんなじ傘で帰りたかっただけです…!」