ウェルカム・トゥ・トリックスター

お香を焚いた部屋は甘くて気分がいい。
とろけそうなくらいおいしそうな香りがして、ずっとひたっていた。

だから気にしてなかった。

気付かなかった。


紙に匂いがつくことも知らなかった。


きっとノートや教科書にも香りがついてたのかもしれない、だけどあたしにはもうわからなかった。

それが普通だったから。


「あの香りのおかげで手紙のことがわかった、まぁあのあと蔵井に聞いたら手紙は知らないって言ってたしな」

あぁもう逃げられない、きっと逃がしてはくれない。

そんな三日月先輩をずっと見て来たもん。


ずっとそばで見てきたから…


「でも1つわからないことあがある」

三日月先輩がずいっと近付いた。

「そこまでしておいてどうして依頼を取りやめると言った?」

三日月先輩の目が見られない。
見るのが怖い、あたしの全部を映すから。

「そもそもこの依頼は何のためだ?蔵井をどうにかしてほしいのが依頼じゃないんだろ?」

詰め寄る三日月先輩は決してあたしを離さない。

もう黙ったままじゃいられない、もうこのままじゃ…

「本当の目的はなんだ?」

あたしがトリックスターに依頼した本当の目的を。

本当はずっと隠しておきたかったんだけど、こんなあたし誰にも知られたくなくて。


でも、もう白状します。


「…ずっと智くんのことが好きだったんです」