ウェルカム・トゥ・トリックスター

雨花先輩は傘を盗んでない。

「真涼ちゃんが困ってる私に貸してくれたから」


あれは大雨の日だったの。

下駄箱やごみ箱、掃除箱に階段の裏…何かを探している人がいた。

外も探してたのか、誰かに何かされたのか、すでにびちゃびちゃで見ていられないぐらいひどくて、可哀想だって思った。


だから持っていた傘を貸したの。



それが雨花先輩だった。



「そんなことしてくれる人初めてで…うれしくて、うれしかったから…」

涙をこぼしながらたどたどしく声を出す、たまに混じるひっくひっくした息にあたしまで苦しくなって。

「仲良くなりたかった」

本当はね、わかってた。
雨花先輩が悪い人じゃないってわかってたの。

「だけど、どうしたらいいかわからなくて…友達なんていたことないからっ、ただいつも見てるだけで…っ」

わかってたけど、怖かった。

見透かされてるみたいで。

「三日月くんに傘を返したのは三日月くんに真涼ちゃんにあげたはずのメモを見せられたから」

メモ…
クッキーについてたメモだよね?

“この筆跡がヒントになるな”

ずっと持ってたんだ、三日月先輩はずっと探して…

「きっと三日月くんに怒られるんだって思って…、だって三日月くんは探偵さんでしょ?」

「!?」