走って、逃げて、振り切って…

どこまで走ればいいのかわからない、だけどもう声を聞きたくなくてひたすらに廊下を走った。

もう嫌なの、声が聞こえるところにいたくないの。

それでも追いかけて来る雨花先輩はちっともあたしを離そうとしてくれなくて。


どうして?

なんで?


そんなにあたしが…っ


もう走るところがなくて角を曲がった。角を曲がればそこは階段があって勢いのままかけ下りようとした。

急いでいた。

とにかく急いで、夢中だった。


逃げることに夢中だった。


早く階段を下りたくて一歩を踏み出した。


「真涼ちゃん待ってっ」


雨花先輩が手を伸ばしたから、あたしの手をつかもうとして伸ばしたから。

つかまれたくなかった、つかんでほしくなかった。


雨花先輩の手から逃げたかった…!



「真涼ちゃん…!!」



避けようとして無理に体を動かしたからバランスが崩れた。


あ、やばい

どうしよ


ズルッ、と足が階段から…


これはやばい

落ちる 



このまま階段の下に、落ちるー…!?



「!」


腕が掴まれる、強い力で。
ぐいっと腕を引っ張られて、そのまま抱きしめられた。

でもこれは雨花先輩の華奢な腕じゃない、もっとゴツッとした力強い腕の中―… 



―ダンッ


「…っ」


すごい音で、床に落ちた。

だけど痛くない。
ちっとも痛くなくて、それは後ろに…

「あっぶねー間に合った…!」

「三日月先輩っ!!?」

三日月先輩が助けてくれたから。
落ちる瞬間あたしの腕を掴んだ三日月先輩が抱きかかえるみたいに守ってくれたから。

「せーくん、真涼ちゃん大丈夫!?」

階段の上からひょこっとのぞきこんだ燎くんが叫んだ。
あわてて階段を降りて、すぐにあたしと三日月先輩の元へ駆け寄った。

「大丈夫!?ケガは!?」

「あたしは…大丈夫だけど、三日月先輩はっ」

「あーいい、いい!受け身は取った」

ふぅーっと息を吐きながら三日月先輩が起き上がる。少し顔をゆがめて、のそのそと体を起こして…


よくないよ、全然よくない!
だって大丈夫なわけない、あたしごと思いっきり床に落ちたんたから…!