──異能が目覚める夜、命の誓いが交わされる




 王都に初夏の風が吹き込む頃、王宮では盛大な仮面舞踏会が開かれる。
 毎年恒例──とはいえ、今年は少し様相が異なっていた。
 第二王子が正式に婚約者を迎えたという報が、王宮内外で話題をさらっていたからだ。

 それはリシェルにとって、表向きは名誉であり、
 裏では命を狙われる“的”でもある。

 

「仮面舞踏会……ふふ。仮面を被っているのは、私だけではないのに」

 

 リシェルは静かに笑う。
 今回の舞踏会には、セシリアとその後ろ盾である第一王子も出席する。
 前世では、彼らの策略によってこの場で失脚させられた。
 毒入りの飲み物。失礼な振る舞いの捏造。貴族の前での辱め──

 けれど今は違う。

 彼女はあらゆる“未来”を知っている。
 この夜の罠を、全て跳ね除ける準備は整っていた。