数日後。
 リシェルは“ある場所”を訪れていた。
 それは、幼いころ閉じ込められた屋敷の古い庭園──
 今は、王命により修復され、小さな孤児院が建っている。

 

「私が捨てられたこの場所が、
 誰かの“始まりの場所”になるなら……」

 

 そっと咲いた白いバラを摘み、少女が手を伸ばした。
 リシェルは膝をついて、微笑みながらその花を受け取った。

 

「ありがとう。とても綺麗な花ね」

「お姫さま、また来てくれる?」

「ええ、もちろん。また来るわ。……“王妃”として、ではなく、“私”としてね」

 

 その背に風が吹き抜ける。
 新しい時代の風──
 それはもう、悲しみや孤独を運んでこない。

 

 ただ、希望と、新しい命のぬくもりだけを。