その夜。
王城の小さな宴席では、ふたりの即位後初の非公式な“夜会”が開かれた。
招かれたのは、リシェルが唯一心を許す側近たちと、
戴冠に尽力した少数の信頼できる人物だけ。
グラスを片手に、側近のひとりが言った。
「王妃殿下は、もうすっかり“王宮の華”ですね。
昔のリシェル様とは、まるで別人のようで」
「そう? 私の中では、昔の私も今の私も、繋がっているの。
でも……変われたのは、たぶん、“あの人”が手を引いてくれたから」
そう言って、リシェルは隣のカイルに視線を向けた。
彼はいつものように口数少なく、けれど誰よりも深く彼女を見守っていた。
「王としても、夫としても、未熟なところばかりだが……
君の笑顔のためなら、何度でもやり直す覚悟がある」
「そんなあなたがいる限り、私は何度でも立ち上がれる」
乾杯の音が響き、静かな夜が幕を閉じていく。



