大聖堂は荘厳な光に包まれていた。
 聖歌が響き渡る中、玉座の前に進み出たカイルは、
 膝をつき、王家の冠を前に頭を垂れる。

 司祭が冠を手に取ったその瞬間、
 王都中の鐘が鳴り響き、式の最高潮が訪れる。

 

「ここに宣言する。
 カイル・ヴァレンティウスを、我らが正統なる王と認め、戴冠する」

 

 金の王冠が、静かにカイルの頭上へと置かれた。

 それは、王国に新たな時代が訪れた瞬間だった。

 しかし、それで終わりではない。

 

「……そして、王妃の戴冠を」

 

 司祭の声に導かれ、リシェルがゆっくりと進み出る。
 白いヴェールを纏い、民衆の視線を受け止めながら歩く彼女の姿は、
 まるで一輪の花が王座へ咲いたようだった。

 カイルが、彼女の手を取り、言葉を発する。

 

「リシェル・エレノア・ディアノルト。
 おまえを、我が王妃として迎える。
 契約ではなく、愛をもって、共に国を治めよう」

 

 その言葉に、リシェルの目に涙が滲む。

 

「……はい。カイル。あなたの隣で、生きると誓います」

 

 聖冠が、彼女の額へとそっと置かれる。

 そして──カイルは、彼女の手を取り、ゆっくりと近づいた。

 何百もの視線の前で、
 何百年続く王家の歴史の上で、
 彼は、王妃の額に、そして唇に、そっとキスを落とした。

 

 その一瞬、会場が息を呑む静寂に包まれた。
 そして次の瞬間、拍手と歓声が、大聖堂を震わせた。