リシェルは、戴冠式を待つ控室の鏡の前で、静かに自分の姿を見つめた。
 銀のティアラ、真紅と金糸をあしらったドレス、
 そして、胸元に煌く彼から贈られた指輪。

 ――かつて、誰からも愛されず、捨てられることばかりだった自分が、
 いま、王妃として立っている。

 

 「……君がここにいることは、奇跡なんかじゃない。努力と、意志の力だ」

 

 後ろからそっと声をかけたのは、今日、王冠を戴く新王――カイルだった。
 王としての装束を纏いながらも、彼の声はいつもと変わらず優しい。

 

「不安なら、手を取る。……それでいい」

 

 カイルは手を差し出した。
 リシェルは、それに迷いなく自分の手を重ねた。

 

「ううん。不安じゃないわ。……あなたといるなら、何も怖くない」

「……そうか。なら、行こう。“王と王妃”として」