その背後に、静かに響く声。
 振り返れば、仮面もなく現れたのは、セシリアだった。

 

「やっぱり……あなたが、すべての糸を」

「そうよ。だって、私は“未来の王妃”になるつもりなんですもの」
「リシェル、あなたがいなければ、ユリウス様は私を正式に迎えてくださるわ」

「……あなたの愛は、ただの“執着”よ」
「ユリウス殿下を救うふりをして、あなた自身が王妃になりたいだけ」

 

 セシリアの手が、懐から短剣を取り出す。

 

「私の邪魔をしないで。……あなたさえいなければ!」

 

 その瞬間、文書庫の扉が開いた。

 

「それ以上、一歩でも動けば……命の保証はしない」

 

 冷たい声と共に現れたのは、カイルだった。
 鋭い眼差しに、セシリアが怯む。

 

「君を信じていた。……だが、もうこれ以上、君を庇うことはできない」

「カイル……カイル……どうして、私じゃだめなの……!?」

「君は、他人を利用し、傷つけて、自分の愛を押し付けた。
 それは“愛”じゃない。ただの欲望だ」

 

 セシリアの顔から、仮面が崩れ落ちる。
 泣き叫ぶ彼女を護衛が拘束する中、カイルは静かにリシェルを抱き寄せた。

 

「よく……ひとりでここまで来たな」

「……ううん、怖かった。でも、あなたを信じたかった」

「俺も。君が誰よりも、勇敢な人間だと知っている」

 

 彼女の手には、決定的な証拠が握られていた。