リシェルの瞳から、涙が零れた。
 そんな昔の落書きを、彼はずっと覚えていたのだ。

 何度も心を閉ざして、信じることから逃げた彼女に、
 まるで時を超えて、過去の自分が手を伸ばしてくれたようだった。

 

「……お願い」
「その指輪を、はめて」
「“契約”じゃなく、あなたの意思で、私を選んで」

 

 カイルは無言で頷き、リシェルの左手薬指にそっと指輪をはめた。

 ぴたりと、まるで最初からそう決まっていたかのように、完璧に嵌った。

 その瞬間──

 リシェルの胸元から、銀と赤の“組紐の光”があふれ出す。
 それは、空に向かって伸び、二人の間を結ぶ“運命の糸”となった。

 

「これは……?」

「君が選んだ、未来の形だ」

 

 リシェルは、ようやく微笑んだ。
 それは、これまでのどの笑顔よりも、強く、美しかった。