そう決めたリシェルは、その日のうちに筆を取り、王宮へ一通の書状をしたためた。
 内容は簡潔だった。

 

【婚約者としての役割を果たす意志がある。対価は、対社交界での信用と自由。】
【政治的な干渉、干渉家族、個人的感情は一切不要。】
【期限は一年。正式な婚姻を前提としない“仮契約”。】

 

 これは求婚ではない。
 愛を求めるのでもない。
 ただ、互いの利益のための契約だ。

 

 ──その翌日。返事は意外なほど早く、そしてあっさりと届いた。

 

「明朝、王宮の西塔にて面会を許可する。
  ──カイル・ヴァレンティウス」



 西塔は王宮でも最も静かな場所だ。
 リシェルが訪れると、応対もなしにすぐ案内された。