──夏の庭園。
──孤独そうな少年。
──「私の名前? ひ・み・つ。でも、“リ”のつく名前だよ」
──「君は、太陽みたいだ。光をくれる」
「……思い出したの?」
「いや。ずっと覚えていた」
その言葉に、胸の奥が震えた。
まさか、彼も同じ記憶を……?
「……じゃあ、あのときの少年が……あなた……?」
言葉に出すと、何かが決壊しそうで、声が震えた。
けれどカイルは静かに頷く。
「君は忘れていても、俺は覚えている。
君のくれた“花の冠”も、言葉も。……あのとき、救われたんだ」
「そんな……私は……ただ」
目頭が熱くなった。
その記憶は、リシェルにとっても唯一“伯爵令嬢”ではなかった時間だった。
身分を伏せ、庭師の娘として庭園に忍び込んでいたあの数日。
あのときだけは、誰にも求められず、誰にも縛られず、自分のままでいた。
まさか、その記憶が今、ここで繋がるとは思ってもいなかった。



