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塩谷君が自宅の扉を開け玄関に入るとすぐに出迎えてくれたのは、可愛らしい三毛猫だった。

「にゃーん」

「うわっ、すっごく可愛いっ」

私の姿を見つけた猫は塩谷君の足をすり抜け愛らしい瞳で私を見上げた。私はすぐにしゃがみ込む。

「怖いかな、触っても大丈夫?」

「大丈夫ですよ、人懐っこいんで」

私がそっと喉元を掻いてやれば猫は三日月の形に目を細める。

「来てよかったー、すごく癒される」

「でしょ? うちの子、世界で一番可愛くて癒しの存在なんです」

塩谷くんが膝をついて猫を抱き上げると、ゴロゴロと喉を鳴らして甘え始める。

「女の子?」

「正解です、保護猫なんで推定ですけど3歳くらいらしいです」

「へぇ、名前なんて言うの?」

「あ、名前ですか……」


変なことでも言っただろうか。塩谷君がメガネを鼻に押し当てながら僅かに首を捻った。 


「何? 言いにくいの?」

「えっと別に。その……モチです」 

「ん? モチ?」 

「俺が好きなのが、要はその……《《餅好き》》、なんですよね」

(ん? 望月……あ、餅好きか)

私は一瞬、餅好きを自分の名前に変換したあとで塩谷君の好物が餅だと気づく。

「へぇ、知らなかった。猫ちゃんにつけるぐらい大好きなんだね」


何気なく笑ってそう返した私を見て、塩谷君がプイッと視線を逸らす。