派遣で図書館の事務を始めた。
 仕事は地味だけど、人の声に癒される。
 「ありがとう」や「助かった」のひと言に、心が少しずつ満たされていく。

 透真といた頃のような「劇的な愛」はもうない。
 でも、だからこそ安心できた。

 あの頃は「愛してる」と言わないと不安だった。
 毎日会わないと、存在を失ってしまいそうだった。

 今は違う。

 お昼にパンを買って、公園のベンチで一人で食べていても、心が平穏だった。

(誰かに頼らなくても、生きていける)

 初めてそう思えたとき──
 透真の笑顔が、なぜか浮かんだ。

(こんな私なら……いつか、もう一度、透真に会えるかな)