郊外の安アパート。初めての一人暮らし。
 最初の一週間は、夜が怖かった。

 帰っても誰もいない。
 おかえり、と言ってくれる声もない。
 スマホの通知を見ても、「透真」の名前は現れない。

(私、間違えたんじゃないかな)

 そんな思いが何度もよぎった。
 だけど──そのたびに、病室での透真の顔が脳裏をよぎる。

 あんなに疲れた顔を、させたくなかった。

 あの人を「支えるふりをして、依存していた自分」が、今もまだ心の奥で責めてくる。

 朝、目が覚めて、泣きながらお味噌汁を作った。
 洗濯機の音に紛れて、嗚咽を押し殺した。

 それでも──数ヶ月たったある日。

(……透真がいなくても、私、死なない)

 そう思ったとき、不思議と世界が静かに変わっていった。