あなたがいないと、息もできなかった。




 五年目の春。図書館の受付にいたとき。

 来館者名簿に「一ノ瀬透真」の名前を見つけた瞬間、心臓が止まりそうになった。

(まさか……)

 カウンターに立ち尽くしていると、ふと視線を感じた。

 顔を上げる。
 目が合う。
 ──彼が、そこにいた。

 

 ほんの一秒、息ができなかった。
 その姿に、涙が出るかと思った。
 でも、泣かなかった。

 ただ、笑った。

「……透真くん?」

 その瞬間、心のどこかで、ずっと止まっていた時計が──ようやく動き出した。