彼は返事の代わりに飲み物を口に含んだ。馴染みのある味がした。確かにカフェオレである。机上に置かれたカナデのカップの中を一瞥すると、中身は彼のものよりも濃い色をしていた。コーヒーの色合いだ。気分でカフェオレにしたわけではないことが窺えた。

「別で淹れてくれたんですか」

「ミコトさん用にカフェオレのスティックを箱で買っておいたんです。今日ようやく、最初の一本が空になりました」

 カナデは平然と言ってのける。頻繁に会うわけでもない遠方にいる彼のために、もっと言えば、利害の一致で手を組んでいるだけの彼のために、自分が飲むわけでもないカフェオレのスティックを箱でストックしておくなど、少々変わっている男である。しかしながら、カフェオレを好む彼に損はないため、変に突っ込むことはしなかった。カナデが変わっていようとも、カフェオレの味に変わりはない。

「俺用に買うなんて気持ち悪いと思いましたか?」

 カナデが彼の心境を代弁するかのように口にした。表情が胡散臭い。どう思われたか、不安を感じているわけではないようだ。

「気持ち悪いとは思いませんでしたが、変わっているとは思いました」

 彼は誤魔化すことなく思ったままを伝えた。嘘を吐いたとてあっさりと見破られてしまうだろう。そんなことないです、などと気を遣う間柄ではなかった。

 カナデは緩く微笑ったまま、正直に答えた彼を見つめ、やおら瞬きをして口を開いた。

「変わっている方法で尽くす男は嫌いですか?」

「いきなりで真意が読めませんが、嫌いと言えばどうなりますか」

「ショックでベランダから飛び降りて死ぬかもしれません」

「そうですか。ここは二階ですから、そう簡単には死ねないと思いますよ」