大学生の思い出など私にはあまり存在しない。

というか同じ景色の思い出ばかりだった。

授業を受けて、いつも同じ場所でお昼ご飯を食べて、同じバイト先に向かう。

だから桐谷くんに初めて会った時、言葉通り意味が分からなかった。



「琴ちゃんって呼んで良い?」



チャラい、という考えしか浮かばなかった。

それでも桐谷くんは人当たりは良かったが初めて会った人を突然名前呼びする人でもないらしく、私は無駄に「桐谷くんと付き合っているの?」と聞かれた。

別に嫉妬されるほど桐谷くんは人気でもなかったけれど、興味本位でそう聞かれることすら面倒くさくて。