その名前呼びは、反則。

「そんな琴ちゃんに怒らないといけないことがあります」

桐谷くんは私の両頬を手でむにっと掴んだ。

割と強い力で。



「生きている中で傷つかないなんて無理だよ。絶対に無理。それでも皆んな傷ついても頑張って生きていくんだ。なんでだと思う？」

「……だって傷つくのを怖がって何もしないより、傷ついてもしたいことをして、やりたいことをやって、人生を楽しみたいから」

「琴ちゃんは不器用だよ。しかも怖がり。それでも俺は琴ちゃんが好き。楽しそうにしている琴ちゃんが好き。傷つくのを怖がっていて欲しいんじゃない。怖い時は『力を貸して』って言って欲しいんだ」

「俺だっていつも琴ちゃんの欲しい言葉をあげられる訳じゃない。うまく伝えられない時もある。でも琴ちゃんのこと大好きで、それを信じていて欲しい。だからもし今度俺が口下手になったら、琴ちゃんから話しかけて」




この言葉を優しいと受け取らない人なんて世界にいるのかな。

そう思うくらい優しくて、涙が溢れて、嗚咽(おえつ)が漏れてしまう。