いつか「ほんと」になれたら

◇◇◇

 
 オーブンをそっと開くと、バターの香ばしい匂いが辺りに立ち込める。

 
「うわぁ…いい匂い!」
「ほんとだね。美味しそう」


 あれから1時間以上かかってようやく完成したクッキーは、初めてにしては上手に焼けた。ずっと隣で見守っていてくれたエリックも、満足げな表情を浮かべている。
 
 あとはお皿に盛りつければ完成。
 純恋さんや水月さんは喜んでくれるかな。
 
 棚の1番上にあるという、大きなお皿に手を伸ばす。西洋風で、花柄の綺麗なものだと艾葉ちゃんが話してくれたのだ。


「あとちょっと…。よし、届いた!」
「咲凜! 危ない!!」

 
 想像よりも重いお皿は手を離れ、つま先立ちだったわたしの体はぐらりと傾く。
 ああ……。艾葉ちゃんの大切なお皿なのに…。

 けれどもお皿の割れる音もせず、痛みを覚悟した背中は、途中で受け止められた。
 

「大丈夫?」 


 大好きな空色の瞳に間近で覗き込まれて、何も考えられなくなる。わたしを支える腕は、男の人の腕で思ったよりも力強い、なんて。
 
 そんなことを考えては、余計に意識してしまう。