いつか「ほんと」になれたら

 10年前のあの日、僕は知らない場所にいた。

 今までいた、沢山の見知らぬ本たちが並んでいた場所(本屋と言うらしい)ではない。あんなに賑やかじゃなくて、もっと静かで暗くて、冷たくて寂しい所。


 そこに押し込まれてから、3日くらいが過ぎた。
 暗闇から、明るい方へ連れ出された頃、あたりには幸せそうな笑い声が満ちるようになった。

 
「咲凜、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう!」


 なるほど。今日は、“咲凜ちゃん”って子の誕生日会をしてるのか。通りで賑やかなわけだ。

 その後も、クラッカーを鳴らしたり、ご馳走を食べたり、パーティーは大盛り上がり。

 
 所詮は絵本の一部に過ぎない僕は、包装紙で視界が遮られているから、周りの音から想像してただけではあるけど。

 僕は誕生日会と言えば、お城で開かれるような大掛かりなものをイメージしてたけど、この会場には“咲凜ちゃん”と“おかあさん”しか居ないみたいだった。

 2人でやってて楽しいのかな、とか思うのに、聞こえてくる声は幸せそうで、ちょっと羨ましい。

 
 お城の誕生日会は、華やかではあるものの、家族以外にも色々な人が来るから、実は大変で疲れる。


 そんな事を考えているうちに、賑やかさも段々と収まってきた。
 晩ごはんを食べ終わり、誕生日会もいよいよクライマックスみたいだ。
 

 僕は、いや僕の絵本は、ふわりと持ち上げられた。