いつか「ほんと」になれたら

 学校が終わったら、そのまま花苑家に帰る。

 芽蕗ちゃんが遊びに来たり、晩ごはん中の水月さんの帰宅に純恋さんが歓喜したり、テレビでやってたホラー映画に怯える艾葉ちゃんを純恋さんが宥めたり…。

 まぁとにかく、わたしは家出中とは思えないほど、騒がしくも幸せな生活を送っていた。
 
 ここにエリックがいてくれたらよかったのに、なんて思ってしまうわたしは罰当たりだ。
 純恋さんたちにもすごく良くしてもらっているし、わたしには不満を言う筋合いはない。
 

「咲凜って、今日部活じゃなかったよね? よかったら一緒に帰ろ」
「もちろんだよ!」
「まぁ…どうせ帰る場所も一緒だからね」

 せっかくの艾葉ちゃんの誘いを断るわけもなく、隣に並んで歩き始める。

 いつもはもう少し賑やかなんだけど、今日は芽蕗ちゃんがいないからか、なんだか静かだ。
 大事な用事ができたとか言っていたが、なんだろう。
 表情こそ真剣だったけど、その口調の節々から珍しく浮かれている様子だったのを覚えている。
 

 沈黙を埋めるように、艾葉ちゃんがわざとらしく明るい声を上げる。
 この空気感を気まずいと思っていたのは、向こうも同じだったみたい。
 
「そういえば私さ、この前告白されちゃったんだよね」
「え、すごーい!!」

 優しくて綺麗で、頭もいい艾葉ちゃんは男女問わずモテる。本人は否定しているけど、こうやって告白されているのがいい証拠だ。

「即振ったけど」
「あはは、艾葉ちゃんらしいね」